甘いニヒリズム

可笑しいほどいつもただすれ違うことが セオリー 音楽とか映画とかクイズなど お気に召すまま DOOWUTCHYALiKE

何を言っても「考える奴は考える」と思った話

「考える人ってどんな変なお題を与えられても真面目に考えるんだな」と思った話。

会社に入って3年目くらいのときだった。

上司からの命令で、新入社員のレクリエーションの時間にプレゼンをする機会を与えられた。

プレゼンをするのは、僕と、A君(同期入社の同僚)の2人。発表を聴く新入社員は5人。

プレゼンのテーマは「社会人としての心構え」で「気軽に自由に話していいよ」と言われた。

予定調和の良い話を仕込んでいくよりは

「気楽にざっくばらんな話」をしたいなと思い、あまり内容は煮詰めずに当日を迎えた。

プレゼンの順番は一番目がA君、僕はその次だった。

A君はプレゼンの初めのスライドに突如

"3570"

という数字だけをデカデカと表示させ、新入社員にこう問いかけた。

「この数字、なんだかわかる人いる?」

当てられた新入社員は

「Aさんの得意先の人の数?」

「この会社の従業員数?」

と当てずっぽうに答えるが全部外れ。

A君は急に厳しい口調でこう言った。

「これは、このレクリエーションの時間で会社が君たち一人一人に払う給料の額だ。 いいか、勤務時間というのは常にお金が発生している時間ということを忘れないように。 この時間も何の意識もなく参加してたらとんでもない損失ということだ」

それを聞いて、新入社員も急に背筋を伸ばして緊張感のある表情になった。

その様子を見て僕は(ほうほう。なかなか面白いプレゼン。ただ新入社員も、あんな先輩だと突っ込みづらいだろうな。いいフリをもらった!)と思い、自分のプレゼンのスライドの1枚目にある"数字"をその場で追記した。

A君の発表が終わり、次は僕の番。 プレゼンの最初に

"1176"

という数字をデカデカと示して新入社員にこう聞いた。

「この数字、何だかわかる人、いる?」

新入社員も色々な答えをしたが、全部違う。 そこで僕が真面目な顔をしていう。

「これはな、ハムスターが生まれてから成熟期になるまでの1176時間、という意味だ。

ハムスターは成長が早いんだ。 飼ったことのある人いる?

あ、いる?なんて種類? ジャンガリアンか、僕はゴールデンハムスターしか飼ったことない。可愛いよね。

……って、何の話だっけ あ、ハムスターですらこの時間で成長するんだぞってこと。

これを皆さんに伝えたかった」

と言った。

完全に「何言ってんの?」って突っ込みが欲しくてウケ狙いで仕込んだもの。 何人かの新入社員がクスクス笑ってるのをみて狙いが成功して嬉しかった(それ以外の人がなんともいえない神妙な顔をしていたのも面白かった)。

僕のプレゼンが終わったあとに、A君が僕の目を真っすぐみて「あのさ、」と話しかけた。

やばい、もしかしたら自分をダシにされてウケ狙いをしたことを怒ってるのかな⁈と思ったが違った。

「さっきの君のハムスターの話、感動したわ。めっちゃ深いな。 小動物の成長スピードに負けないように、お前らも早く一人前になれってことだよな。 しかも、ハムスターを飼ってる人がいたかどうか聞いて、その話が伝わるかどうかも確認してた。すごいな」

だって!

たまに思い出して、心があたたかくなる思い出。